東京高等裁判所 昭和58年(ネ)2289号 判決
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【説明】
控訴人らの主張は次のとおり。
「二 控訴人らは、昭和五四年五月頃訴外宮下セツ(以下「訴外宮下」という。)に対し、同人が大原仏檀の代表者と親戚関係にあるところから大原仏檀への就職斡旋方を依頼した。そこで訴外宮下が控訴人らの人柄、能力等を知るため、被控訴人方に電話したところ、訴外星野が請求原因第二項記載の控訴人らに対する名誉毀損をしたものであつて、甲第一号証はその会話を録音したテープの反訳文である。
三 被控訴人は、仮に被控訴人に損害賠償債務が発生したとしても、控訴人らは、昭和五五年一〇月二二日成立した裁判上の和解において被控訴人に対し、右債務を免除したと主張するが、右主張は争う。
被控訴人やその被用者である星野が控訴人らを中傷し、その名誉・信用を著しく失墜させたことを控訴人らが知つたのは、昭和五五年一一月初め頃であり、被控訴人の主張する右裁判上の和解が成立した日よりも後のことであるから、控訴人らが右和解において、被控訴人に対する右不法行為に基づく損害賠償債権を放棄することはありえない。」
【判旨】
二1 のみならず、<証拠>を総合すると、控訴人らは被控訴人方を退職した後、実父長部真平を代理人として、昭和五五年中に被控訴人に対し、控訴人らが在職中に積立てた金員の支払を求めて長岡簡易裁判所に訴えを提起し(同簡裁昭和五五年(ハ)第四五、四八号事件)、次いで、被控訴人方に在職中の未払賃金、退職金及び解雇通知を受けたことによる慰藉料等の支払を求める訴え(同簡裁昭和五五年(ハ)第六三、六四号事件)を右簡易裁判所に提起したが、前者について、昭和五五年七月二日裁判上の和解が成立し、次いで後者についても同年一〇月二二日裁判上の和解が成立した。後者の和解は、被控訴人は、控訴人らに対し、未払賃料、退職金、慰藉料等一切の債務を含めて、控訴人典明に対しては金一〇万円、控訴人和茂に対しては金九万円の支払義務があることを認め、これを一週間以内に支払うものとし、控訴人らはその余を放棄し、併せて、当事者双方は右和解条項で定める外、他に何らの債権債務がないことを相互に確認することを内容としていること及び右債権債務不存在確認の条項は、控訴人らが被控訴人との雇用関係及びその解消に関し、再度訴訟を提起したことに鑑み、将来右当事者間に更に紛争が生じることを防止する意図で加えられたものであることを認めることができ<る。>
2 ところで、右和解中の「当事者双方は、右和解条項で定める外、他に何らの債権債務がないことを相互に確認する。」との条項は、その時点において、当事者相互の間には、右和解の対象とされた紛争以外をも含め、およそ当事者相互の間には、右和解条項で定める事項以外には、何らの権利義務関係も存在しないことを確認し、これにより、将来同一当事者間に、右和解成立以前の事由に基づく法的紛争の発生することを防止しようとするものであつて、本件和解調書においても、右条項がその趣旨で加えられたことは先に認定したとおりであるから、特段の事情がない限り、右和解期日前の事由を原因とする本件損害賠償請求権は、右和解により消滅したものというべきである。
控訴人らは、特段の事情として、訴外星野が訴外宮下セツに対し、電話で控訴人らの名誉を毀損したことを知つたのは、右和解成立後の昭和五五年一一月初め頃であつたから、控訴人らは、右和解当時右不法行為に基づく損害賠償請求権の存在を知らず、従つて、これを放棄する意思などなかつたと主張するのであるが、仮に右のような事情が前記特段の事由に当るとしても、<証拠>によれば、控訴人らは、訴外宮下と訴外星野との間の電話による会話の内容を右和解成立前の昭和五四年六月中には聞かされていたことは明らかであるから、右主張は失当である。
(野崎幸雄 山下薫 浅野正樹)